〔表紙・裏表紙解説〕
■「京都名勝案内圖」(京都名所鳥瞰図)、「京都名所 洛東遊覧交通図絵・洛西遊覧交通図絵」
京都の鳥瞰図といえば、古くは「洛中洛外図屏風」(1560年頃)や黄華山の「花洛一覧図」(1808年)、貞秀の「京都一覧図画」はあまりにも著名である。
こうした名所図絵巻とか、明治期の神社仏閣境内図の手法の伝統を継承し、加味した絵図こそ大正・昭和期に活躍した最高の絵師は吉田初三郎(明治17年~昭和30年)であろう。2代目初三郎(吉田朝太郎)作品を含めて2000余点ほど描画しているが、京都市域だけでも70点近くもの作品を残している。図抜けて多いのは、画室の本拠地が東京→犬山、八戸などの他に、常に京都にあったこと、また初三郎の出身地であったことも多大な影響を与えている。
そこで、京都特集号にちなみ、市内を描く代表作品を列挙してみると、「京都鳥瞰図」(大版、大正4年)、「京名所御案内」(昭和3年)、「京都名所大鳥瞰図」(大版、昭和3年)、「京都案内」(昭和8年)、「京都へ」(昭和13年)、「京都名勝案内図(観光京都)」(昭和15年)、「京都遊覧鳥瞰図」(昭和27年)などであろうか。神社仏閣物では醍醐山、広隆寺、仁和寺、大覚寺、光悦寺、鞍馬寺、伏見稲荷、妙心寺など、聖山物では愛宕山、比叡山など、建物では都ホテル、大丸、梅小路駅を中心とする京名所御案内など、電車物では京阪電車、叡山電鉄・鞍馬電鉄沿線名所図絵など多種多様である。月桂冠伏見本店景観図(昭和3年)はとりわけ異色作品だ。今回の付録、扇面2面の「京都名所 洛東遊覧交通図絵・洛西遊覧交通図絵」(昭和3年)も同様である。
さて、本題の表紙絵にふさわしい作品を選ぶとなると、大版は縮小率の関係で無理。そこで、中版以下の中から一番親しまれた構図で、印刷鮮明の「観光京都」パンフレット(京都市観光課+京都市電気局発行、昭和15年)を選んでみた次第である。
四方を山に囲まれた都・京都市で、ひときわ目立つ名峰といえば、まず東の比叡山を挙げねばなるまい。京都駅寄りの市街南部からは双耳峰として、なだらかな東山の東北隅に君臨し、朝な夕なに仰ぎ見られる市民の山だ。古くは平安遷都以来伝教大師開山の延暦寺のある霊山としても知られ、西の愛宕山は「伊勢へ七たび、熊野へ三たび、愛宕山には月詣り」と信仰登山の対象として知られ、今でも火防の神として崇められているほどだ。本図の南方上空からの視点からでも乳房型ドームの山容が迫ってくる。平安京跡の町割りや麓の神社仏閣にも注目したい。富士山や日本ラインの表現も初三郎らしい「遊び心」であろう。
蛇足だが、いつでも見られる「京都市鳥瞰図絹本原画」(約110×150cm、昭和30年頃)が、京都駅ビル西ゾーン11階「れすとらん」街入口内壁に掲額中なのでご覧ください。
(藤本一美 鳥瞰図・展望図資料室主宰)